美しい自然に触れられる登山。しかし、山には予期せぬ危険が潜んでいます。
近年、ハチによる被害が増加しており、熊以上に身近で深刻なリスクとして、多くの登山者が注意を払っています。
この記事では、登山で遭遇する可能性のある危険なハチの種類から、刺されないための具体的な対策、そして万が一刺されてしまった場合の対処法まで、詳しく解説します。
登山で遭遇する危険なハチの種類
登山で特に注意すべきなのは、攻撃性が高いスズメバチです。
オオスズメバチ
特徴
体長が3cm以上にもなる、日本最大のハチです。
習性
非常に攻撃的で、巣に近づくと集団で襲ってくることがあります。
キイロスズメバチ
特徴
オオスズメバチよりは小さいですが、攻撃性は高く、都市部でも見られます。
習性
巣は木の洞や土の中など、様々な場所に作られます。
アシナガバチ
特徴
体が細長く、脚をだらりと垂らして飛びます。
習性
比較的おとなしい性格ですが、巣に近づくと刺されることがあります。
ハチ刺されの症状と危険性
ハチに刺されると、痛みだけでなく、深刻な症状を引き起こすことがあります。
1回目の刺傷
症状
激しい痛み、腫れ、かゆみなどが局所的に現れます。
危険性
毒の量にもよりますが、通常は数日で症状が治まります。
2回目以降の刺傷(アナフィラキシーショック)
症状
じんましん、呼吸困難、意識障害、血圧低下など、全身に症状が現れます。
危険性
アナフィラキシーショックは命に関わる重篤なアレルギー反応です。以前にハチに刺された経験がある方は、特に注意が必要です。
ハチに遭遇しないための対策
ハチの被害を防ぐには、事前にできる対策が最も効果的です。
1. 誘引物を避ける
香水・化粧品
ハチは甘い香りに誘われます。香水や香りの強い化粧品、制汗スプレーなどは控えましょう。
黒い服装
黒はハチが攻撃する対象となりやすい色です。白やグレーなどの薄い色のウェアを選びましょう。
2. 巣に近づかない
巣の発見
木の洞や土の中、岩の隙間などに巣があることがあります。
注意喚起
登山道で「ハチに注意」の看板や目撃情報を得たら、特に注意して進みましょう。
3. 鈴を携帯する
音で知らせる
熊対策の鈴は、ハチにも有効です。音で存在を知らせ、ハチとの予期せぬ遭遇を防ぎます。
ハチに遭遇してしまったら
ハチと遭遇してしまった場合、冷静な行動が重要です。
1. じっとする
動かない
ハチを刺激しないよう、手で払ったり、大きな声を出したりせず、静かにその場を離れましょう。
しゃがむ
低い姿勢になることで、ハチの攻撃範囲から逃れられることがあります。
2. 静かにその場を離れる
ゆっくりと後退
ハチに背を向けず、顔をハチに向けたまま、静かに後ずさりしましょう。
走らない
走るとハチを刺激し、集団で追いかけてくる可能性があるため、避けましょう。
ハチに刺されてしまった場合の対処法
万が一ハチに刺されてしまった場合、適切な対処が重要です。
1. 毒を絞り出す
ポイズンリムーバー
ポイズンリムーバーは、毒を吸い出すための道具です。
※ポイズンリムーバーに関する注意※
ポイズンリムーバーの効果については、医学的な根拠が十分に立証されていないというのが現状です。専門家の間でも意見が分かれており、「科学的な効果は証明されていない」と懐疑的な見解を示す声も少なくありません。
ハチの毒は非常に速く体内に広がるため、吸引ポンプで毒をすべて吸い出すことは難しいとされています。
しかし、一方で「使ったら症状が軽くなった」という個人的な感想や経験談も多く存在します。
これは、毒を完全に吸い出すわけではなくても、一部の毒や毒液を排出することで、症状の悪化を抑えたり、精神的な安心感を得たりする効果があるためだと考えられます。
つまり、ポイズンリムーバーは「絶対的な効果がある」とは断言できないものの、
「使わないよりはマシ」な応急処置として、登山者やアウトドア愛好家の間で広く使われているのが実情です。
口で吸わない
口で吸うと、毒が体内に取り込まれる危険があるため、絶対に行わないでください。
2. 刺された場所を冷やす
冷たい水
刺された場所を冷たい水で冷やすと、腫れや痛みが和らぎます。

近寄らない
刺激しないようにその場から離れましょう
痛みを緩和する処方薬 ステロイド外用薬テルモベート
テルモベート(デルモベート)は、皮膚の炎症やアレルギーを抑える効果が非常に強い、ステロイド外用薬です。
日本では、ステロイド外用薬は強さによって5段階に分類されていて、テルモベートは最も強いストロンゲストに位置づけられています。
テルモベートの効果
テルモベートの有効成分は「クロベタゾールプロピオン酸エステル」です。この成分が皮膚の炎症や免疫反応を強力に抑えることで、以下の症状に効果を発揮します。
湿疹や皮膚炎
進行性指掌角皮症(手や指の皮膚が硬くなる症状)、アトピー性皮膚炎、慢性湿疹など、他のステロイドでなかなか治りにくい症状を改善します。
乾癬(かんせん)
皮膚が赤くなり、白いかさぶたが重なる慢性的な皮膚病です。皮膚の細胞の異常な増殖を抑える効果があります。
痒疹(ようしん)群
強くかゆみを伴う、皮膚の硬い盛り上がりを伴う症状を和らげます。
円形脱毛症
重症で難治なものに対して、炎症を抑える目的で使われることがあります。
使用上の注意点
テルモベートは非常に強力な薬であるため、医師や薬剤師の指示を厳守して正しく使うことが大切です。
適応症以外に使わない
ニキビやヘルペスなど、特定の細菌やウイルスによる皮膚感染症には使えません。症状を悪化させるおそれがあるため、自己判断で使わないでください。
塗る部位に注意
顔や首、陰部などの皮膚が薄い場所は薬の吸収率が高く、副作用が出やすいため、通常は使用しません。
長期使用を避ける
長期間、広範囲にわたって使い続けると、皮膚が薄くなる、毛細血管が広がる、ニキビができやすくなるなどの副作用が起こることがあります。
テルモベートは、つらい皮膚症状に対して非常に高い効果を発揮する頼もしい薬です。しかし、その分、使い方も慎重に行う必要があります。疑問や不安な点があれば、必ず医師や薬剤師に相談してくださいね。
エピペン 処方が必要
エピペンは、ハチ毒や食物、薬物などが原因で起こるアナフィラキシーショックの症状を一時的に和らげるための自己注射薬です。
エピペンの効果
エピペンの有効成分はアドレナリンです。体内でアドレナリンが分泌されるのと同じように、エピペンを注射することで以下の効果が期待できます。
血圧を上げる
血管を収縮させて血圧を上げ、ショック状態になるのを防ぎます。
気管支を広げる
呼吸を楽にして、息苦しさを改善します。
心臓の働きを強くする
心臓の機能を高め、心拍数を増加させます。
エピペンは、あくまでも応急処置です。アナフィラキシーを根本的に治療するものではないため、使用後はすぐに医療機関を受診する必要があります。
使用すべき症状
アナフィラキシーの症状は、時間とともに急速に悪化することがあります。以下のような症状がみられたら、速やかにエピペンを注射してください。
呼吸器の症状
のどや胸が締め付けられる感じ、息苦しさ、ゼーゼーする呼吸、声のかすれなど
全身の症状
意識がもうろうとする、ぐったりしている、脈が触れにくい、尿や便を漏らすなど
消化器の症状
繰り返し吐き続ける、強い腹痛など
使用方法
エピペンは、太ももの前外側の筋肉に注射します。ズボンの上からでも注射できるので、いざというときに慌てずに済みます。
1. 安全キャップを外す
青色の安全キャップを外します。
2. 太ももに押し当てる
オレンジ色のニードルカバーの先端を太ももの前外側に垂直になるように強く押し当てます。「カチッ」と音がしたら、注射が始まっています。
3. 数秒間待つ
そのままの状態で数秒間待ちます。
4. 抜き取る
エピペンを太ももから抜き取ります。
副作用と注意点
エピペンは、アナフィラキシーの症状を改善するために非常に有効ですが、アドレナリンの作用による副作用が起こることもあります。
主な副作用
動悸、血圧上昇、頭痛、手足の震え、不安感など
注意点
動脈硬化や高血圧の持病がある方は、医師の指示に従い、慎重に使用する必要があります。
エピペンは、命に関わるアナフィラキシーショックの初期対応に役立つ重要な薬です。正しい知識と使い方を身につけておけば、万が一のときに自分の身を守るための大きな助けとなります。
まとめ
すみやかに下山・医療機関へ
下山
応急処置をしたら、速やかに下山し、病院に行きましょう。
アナフィラキシーショック
症状が悪化した場合や、以前にハチに刺されたことがある場合は、迷わず救急車を呼びましょう。